足利事件

足利事件という、いまから20年近くまえに栃木県で起こった女児殺人事件の容疑者が、じつは無罪で釈放されたというニュースが流れています。
http://www.asahi.com/national/update/0604/TKY200906040075.html
この事件については、『幼稚園バス運転手は幼女を殺したか』(小林篤著、草思社)というすぐれたノンフィクションがあるので、興味のあるかたにはこの本をお薦めします。

幼稚園バス運転手は幼女を殺したか

幼稚園バス運転手は幼女を殺したか

これを読むと分かるのですが、この冤罪の背後には、DNA鑑定技術の未熟さだけではなく、容疑者の生活環境や精神状態などじつにさまざまな要因が重なっている。著者は必ずしも警察の不備だけを責めているのではないので(むろん同書を読むかぎり捜査にまずいところは多々あるのですが)、読んでいくと、うーんと唸らされます。
ところでこの事件、ぼくが同書を読んでもっとも衝撃を受けたのは、足利事件はじつは単独の女児殺人事件ではないらしいということです。
足利事件は1990年に起きた事件で、対象は4歳の女児です。しかしじつは同市では、1979年と1984年にともに5歳の女児が対象になる猥褻誘拐殺人事件が起きている。今回釈放された容疑者は、当初この3つの連続殺人事件の犯人として逮捕されました(結果的に起訴は足利事件だけ――そうなった理由も上の著書に書かれています)。
しかし、なんとその彼が逮捕されたあとも同じ事件が起きている。1996年には足利市の隣の太田市で、足利事件と同じくパチンコ店から、足利事件と同じ4歳の女の子が行方不明になるという事件が起きています。そして(こちらは関連性はそれほど明らかではないけど)、この4件とは別に、太田市の近くでは1983年に12歳の少女が、1987年に8歳の少女が遺体で発見される事件も起きているらしい*1
つまりは足利市を中心とした一帯では、70年代から90年代にかけて、あしかけ20年にわたり、数年に一度女児誘拐殺人事件が起きているのです。これはたいへんな事件です。ところがその捜査が、誤った容疑者の逮捕で的外れなものになってしまった。
今回の冤罪事件、容疑者の苦しみは想像を絶するもので、早急に補償が行われるのは当然だとして、他方、そんな大きな事件の犯人が放置されていることもたいへん深刻な事態です。早いところ、足利女児連続殺人事件(とあえて言いますが)の真犯人が捕まって欲しいものです。

*1:これらの事件は上の本が2001年に出版された時点ではすべて未解決。そのあと解決されたという情報は見つけられませんでしたが、確認は取れていません。