しそちず!4号幻の送り状メッセージ

以下は、コンテクチュアズ友の会会報『しそちず!』第4号、送り状用に書いた挨拶です。社員の独断により送付されませんでしたので、ここで公開します。

編集長からのご挨拶

東日本大震災の被災者の方々に心よりお見舞いを申し上げます。
会員の方にも被災地在住の方々がいらっしゃいます。
復興の辛苦のなか、もし本会報が少しでもみなさまの苦しみを和らげるものになっているならば、それに越した喜びはありません。
少しでも楽しんでいただければと存じます……。

……というわけで、なんともかんとも、たいへんな災厄が起きてしまいました。
東北および北関東地方の惨状とは比較になりませんが、首都圏でも放射能汚染の恐怖、計画停電による不安はまだまだ続き、かつての日常が復活するには長い時間がかかりそうです。この震災は日本社会のあらゆる場所に深い傷跡を残し、言論もむろん例外ではないでしょう。ゼロ年代の思想が云々とかもはや言っている場合ではない、ぼくたちは突然のように、50年、100年にいちどの大きな歴史の節目に投げ出されてしまったようです。今後は、次の10年ではない、次の100年を考えなければなりません。
いやはや、それはまったく重い責務です。鬱になりそうです。というかぼくはそういうのはとっても苦手です。でも、現代日本で言論人として生きている以上、この責務からだけは逃がれるわけにいかない。
とりあえず我が社コンテクチュアズは、この危機に対し、言論・思想を担う新しい出版社として最低限の社会的責任を果たすべく、急遽『思想地図β』震災特別号の刊行を決定いたしました。「危機(災厄)と思想の力」を主題とし、この過酷な現実を生き抜くためのアクチュアルな思想の可能性を探る意欲的な目次を構成し、定価の3分の1を支援金として被災地に送らせていただく予定です。
刊行時期や目次など詳細については、本会報次号でも告知しますが、ぼくのツイッターでの呟き @hazuma や公式アカウント @contectures を適宜ご覧になっていただければ幸いです。

さて、会報『しそちず!』第4号をお送りいたします。
今号もふたたび大幅ページ増。巻頭特集では、マンガ表現論でエッジを走り、じつはぼくの15年来の畏友でもある伊藤剛氏の研究室におじゃましました。例によっての二号分割掲載で、次号はマンガ表現の「目」と「視線」の機能について、じつに刺激的な理論の構想が語られるので、お見逃しなく。
第二特集は、昨年末から先月2月26日の創刊記念イベントまで、この3ヶ月間コンテクチュアズを(いい意味でも悪い意味でも!w)翻弄し続けた大型企画、「AZM48 the movie」の総括記事です。入江悠監督参加のコラムと鼎談、狂乱の2.26イベントの報告記事、そして宇野常寛氏連載の原作小説もついに最終回へ……。まったくの偶然なのですが、震災を経た現在の視線で見ると、それはまさに、震災前の、あの幸せで内向的で能天気だったゼロ年代を象徴する企画だったようにも見えないことはありません。2月26日からまだ1ヶ月経っていないというのが、ぼくにはまだどうも信じられないのです……。
そして今号は、この版型、ページ数で送る最後の会報です。次号より本紙は大幅にリニューアルし、版型こそ小さくしなりますが、逆に大幅ページ増、目次も一新し新人の投稿原稿を受け付けるなど(正式な募集は次号からですが、意欲あるひとはいまからでもぜひぜひ! 2万字以内が目安のノンフィクションの論考を幅広く募集します)、『思想地図β』の友の会としてふさわしい読みがいのある会員制マガジンに生まれ変わる予定です。
ほかも某事情により代表がぼくに変わったこと(!)や、オフィスが四谷から五反田に引っ越し面積が10倍以上になったこと(!!)など、この春は社内も動きが激しく、じつは無数に報告しなければならないことがあるのですが、震災に比較すればすべてが些細なことですし、なによりももはや紙面が尽きました。

今後ともコンテクチュアズへのご支援、よろしくお願いいたします。
『思想地図β』震災特別号、そしてその次の2号、必ずよいものにします。

 2011年3月23日
停電で暗い羽田空港にて
合同会社コンテクチュアズ
代表 東浩紀